法律コラム

カスハラ(カスタマーハラスメント)と企業のクレーム対応

この記事の概要

皆様は,「カスハラ」「カスタマーハラスメント」という言葉をご存じですか。これは「カスタマー」,つまり,顧客からのクレームによるハラスメントのことです。カスハラが企業に与える影響と,カスハラの被害を受けない方法を解説いたします。

クレームが企業活動に及ぼす影響

 

近年,企業が顧客満足度を追求するあまり,顧客の「満足」のハードルが高くなり,少しの不満も許されない,我慢できない結果,些細なことでクレームにつながるケースが増えているように思います。

 

正当なクレームに対しては当然真摯に対応して然るべきですが,必ずしも正当なクレームとは言い切れない,理不尽なクレーム,過剰な要求に対してはどのように対応すべきでしょうか。

以前は,「クレーマーもお客様」であって,どんなクレームでも誠意を持って対応することで企業としての対応力を向上させる,サービスを向上させる機会と捉えるべきとの考え方もありました。

 

しかし,理不尽なクレームや過剰な要求に対して,企業の社員たちは神経をすり減らしながら対応し,やがて疲弊し心が折れてしまうというケースも少なくありません。

その結果,本来正当なサービスの提供を受けるべき,他の顧客へのサービスの質が低下してしまう,離職率が高まるといった悪循環を招くことすら起きています。

 

このように悪質なクレームへの対応を間違えると,職場での働く魅力を阻害し,働き手不足を招く,悪質なクレームに対応する人件費などコストの負担により企業利益を損なうことになりかねません。

 

「カスハラ」という言葉を知っていますか

 

平成30年2月21日,厚生労働省の諮問機関である「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」において,特定の顧客からの迷惑行為という意味でカスタマーハラスメントいう言葉に言及されました。

また,平成30年3月に同検討会での報告書においても,カスタマーハラスメントについて顧客や取引先からの著しい迷惑行為は職場のパワハラと類似性があるという指摘がされています。

さらに,平成30年11月19日,厚生労働省は,顧客からの暴言や言いがかりなど悪質クレームから働き手を守るため,企業が取り組むべき対策を指針でまとめる方針を明らかにしました。

 

クレーム対処時の留意点

 

クレームに対応するときの注意点としては,最初から「クレーム扱い」はしないということです。

企業の側からすると,クレームの原因が顧客の勘違いや思い違いにあって,そもそもクレームではないということもあります。

しかし,そこで否定的な言葉で顧客の勘違いなどを指摘してクレームに当たらないことを主張することはたとえ正論であっても,顧客からすると過ちを指摘されて気分がいいものではありません。

 

そこで,まずはどのようなクレームであってもまずはよく話を聞くこと。決して,逆説的な言葉で反論したり,相手に責任があるかのような質問をしないということが肝要です。

 

謝罪の言葉は必要か

 

クレーム対応でよく質問されるのは「謝罪」すべきかどうか,です。

一般的には,謝罪をする=責任を認めたことになるのでは?と思われているからです。

 

しかし,一言お詫びの言葉があることによって,その後の交渉がスムーズに進むことが多いです。顧客もお詫びの言葉を聴くことで気持ちが落ち着き,クレームが炎上する可能性を低くできるように思います。

 

ただし,やみくも謝罪するべきではありません。謝罪のポイントはお詫びの対象を限定するということです。

たとえば,

「ご不快な思いをさせてしまい,申し訳ございません」

「ご不便おかけし申し訳ございません」

という言葉であれば,企業に責任があることについて明言を避けながら,お詫びの気持ちを伝えることで相手の気持ちを鎮めることができるのです。

 

要求内容を明確にする

 

一般的に,クレーム対応はスピード勝負だといわれることがあります。

たしかに,クレームが発生した場合に部署によってたらい回しにするのはもってのほかですし,レスポンスは迅速にすべきでしょう。レスポンスが遅れたことによって,「対応が遅い」「たらい回しにされた」といった2次被害が発生することもありますので,初動対応が早いに越したことはありません。

 

しかし,相手からの要求を聞いてみて,当初思ったよりも解決のハードルが低そうだと思い,

ここは相手の要求を受け入れてスピーディな解決を目指すべきだと早々に決断することについては慎重になったほうが良いでしょう。

なぜなら,安易に要求を受け入れるとエスカレートする可能性があるからです。

クレーム対応の担当者は,クレーマーからの圧力から早く解放されたいという心理からか解決を焦り,小さな要求であればそのまま飲んでしまいそうな場面があるかと思いますが,迅速な解決だけが良い結果を生み出すとは限りませんので注意が必要です。

 

面会での注意点

 

電話での対応ではなく,面会でクレーム対応する際の注意点としては,1対1での面談は避け,必ず2名以上での対応することです。

そして,聞き役と記録係に役割分担をすることです。聞き役がメモを取ることに気を取られずに話を聞くことによって,相手はしっかり話を聞いてもらっているという感覚を持つことができます。記録係りは,メモを取ることに集中でき,正確な記録ができます。

 

通常のクレームと悪質クレームとの違い

 

クレームの中でも正当な要求や苦情の申し立てとは程遠く,言いがかりともいえるような悪質なクレームについては注意が必要です。

たとえば,謝罪に付け込んで「誠意をみせろ」と言って要求を明らかにしない,過剰な要求を繰り返すものは悪質なクレームといえる可能性が高いです。

 

いわゆる「迷惑料」の名目で金品の求めたり,特別待遇を求める悪質クレーマーもありますが,このようなケースでは迷わず警察に通報されたほうが良いでしょう。警察に被害届などを提出する際の資料として,録音は有効な手段になりますので,ぜひ現場でのやり取りを録音して証拠化しておくことをお勧めします。

 

また,恐喝以外にも,土下座をさせる(強要罪),お引き取り願いにもかかわらず居座る(不退去罪),店頭で大きな声を出す(威力業務妨害罪),なにをするかわからんぞなど生命身体への害悪の告知(脅迫罪)なども犯罪になる可能性があります。

 

最近は誰でもSNSで発信でき,瞬く間に拡散することから「ネットに公表するぞ」というクレーマーもいます。

しかし,このようなタイプのクレーマーに対して「やめてください」「困ります」といった対応をすると,クレーマーの要求はますますエスカレートするので弱味を握られたと思わず毅然と対応することが必要です。

 

将来のクレームを防ぐ効果的な方法

 

クレームを事前に防ぐことができるのであれば,それに越したことはありません。

では,将来のクレームを防ぐ効果的な方法はあるのでしょうか。

そのためにはクレームの原因について考える必要があります。

 

クレーマーを生み出しているひとつの原因として,

企業側の対応に問題

があったことが考えられます。

 

最初からクレーマー扱いすることは論外ですが,ちょっとした言葉遣いや気配りでクレーマーにならずに単なる苦情にとどまることがあります。

 

また,個々の言葉遣いや気配りにとどまらず,社内でクレーム対応の研修を実施したり,成功事例や失敗事例を共有することで再発防止に取り組むなど担当者任せにしない組織づくりも大切です。

 

当事務所では,クレーム対応に追われ日常業務に支障をきたすようなときに弁護士がクレーム対応の窓口になったり,担当者の意識改革・職場環境改善のために弁護士が社内研修を実施するなどのサービスをご提供しておりますので,お気軽にお問い合わせください。