法人向け法律サービス介護事業者

はじめに

 

現在我が国は超高齢化社会を迎えており、高齢者福祉サービスの需要は、増すばかりです。

しかしながら、高齢者福祉サービス事業を行うにあたっては、判断能力の面から特に法律上保護される高齢者を顧客とする、契約当事者である高齢者のみならず家族との関係が問題になりやすい、債権の回収にあたっても対象が高齢者であるためその所得について通常以上に考慮せざるを得ない、介護保険法や老人福祉法等による規制に従う必要がある、個人情報の取扱が不可避である、虐待やクレーム、事故の問題が発生しがちである、人員不足や業務過多から従業員との労働問題も発生しやすいなどの特徴があり、事業者は通常の事業以上に法的なトラブルに巻き込まれやすいと言えます。

このような特色を持つ介護事業を運営するにあたっては、様々な局面において法的問題の予防、解決を図ることが迫られます。

以下では介護施設が抱えがちな問題のうち代表的なものについてご説明します。

 

介護事業者が抱えがちな問題

 

適切な契約書の作成について

 

一般的な事業においても、契約書の作成は重要ですが(契約書の重要性についてはこちらで解説をしていますのでご参照ください)、介護事業を営むにあたっては、判断能力に劣りがちな高齢者との契約であり紛争になりやすいこと、また契約当事者以外の家族との間で契約内容をめぐって問題が生じがちであることから、通常以上にその重要性が増します。

このため、たとえ法律上契約書の作成が必須とされていなくとも、介護事業においては利用者との間での契約書の作成はマストといえるでしょう。

さらに介護保険対象事業や有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅については重要事項を開示・説明する義務が課されており、書面を交付しての重要事項の説明が必要になりますし、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅については、一時金の受領について、算定の基礎を書面で明示するなど、特別の規制がされています。

そして、契約の内容に関しては、特に消費者契約法の適用があることに注意をしなければなりません。消費者契約法は、消費者と事業者との間のあらゆる契約に適用されるとされており、介護施設が利用者と締結する契約にも適用されることになります。消費者契約法においては、不当な勧誘による契約が取消せることや、民法、商法その他の法律の任意規定と比べて、消費者の権利を制限し、消費者の義務を加重する条項であって信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効とするなど、一定の不当とされる条項を無効とすることなどが定められています。

 

契約の相手方について

 

利用者は高齢者であることから、利用者本人の判断能力に疑問を持たれる可能性もあります。このような場合、介護施設側としては家族の方とお話の上契約を結びたいと思われるかもしれません。しかしながら、ご高齢者ご本人を当事者とする契約を締結するにあたっては、ご家族の方と契約を締結することができるケースもありますが、そうでないケースもありますので、注意が必要です。

すなわち、あくまで契約は当事者御本人と締結しなければならないことが原則ですが、ご高齢者の場合、自己の行為の結果を判断しうる精神的能力である意思能力を欠いていたり、あるいは単独で確定的に有効な法律行為をする能力である行為能力を欠いている可能性があります。

意思能力を欠いていると判断される場合、契約は御本人と締結しても無効になってしまいますし、行為能力を欠いている場合、事後的に取消されてしまう可能性があります。

このような場合、ご高齢者が成年後見開始の審判を受けている場合には成年後見人と契約を締結することになりますし、保佐や補助開始の審判を受けている場合には、その内容を確認の上、誰と契約を締結することにするのか適切に判断しなければなりません。これらの審判を受けていない場合、成年後見開始の申立をすること等を検討しなければなりません。

 

従業員との問題

 

従業員を1名でも雇った場合には、介護施設も労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法等、様々な労働者保護のための規制に服することになります。

 

従業員による残業代請求

 

この中でも、とくに問題となりやすいものの一つが従業員の労働時間の問題です。労働基準法上、法定労働時間は1週間40時間、1日8時間とされており、この法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合には、労働者との間で三六協定を締結した上で所轄労働基準監督署に提出し、労働者に時間外労働に対応する割増賃金を支払わなければなりません。介護事業者の中には、この労働時間の管理が不十分であったため、従業員との間で残業代を巡って紛争となっているケースがまま見られます。

 

従業員の解雇

 

また、従業員による利用者に対する暴言や横柄な態度などがあると、介護施設においては高齢者の生活の質にも直ちに影響しえ、家族などからの苦情も出やすいため、当該従業員を解雇する必要が生じることもあります。とりわけ、従業員からの虐待があったなどとの苦情申し入れがあった場合にはなおのことです。

しかしながら、介護施設の従業員を含めた労働者の解雇については、労働基準法および労働契約法を通じ、厳しい制限がされています。すなわち、労働者の勤務態度や勤務成績の不良、心身の事故により業務に耐えないとき等に行われる普通解雇については、解雇権濫用法理が適用され、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でないとされる場合には当該解雇は無効とされますし(労働契約法16条)、企業秩序違反に対する制裁とされる懲戒解雇についても、そもそも懲戒処分について、当該懲戒処分に客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、懲戒権の濫用とされています(労働契約法15条)。そして懲戒解雇は、普通解雇より従業員に対して大きな不利益を与えるのでより厳しく規制されています(なお、解雇には、この他にも解雇予告や解雇予告手当の支払などの規制もあります)。

したがって、従業員を解雇するにあたってはケースごとの個別的な対応をとる必要がありますし、場合によっては、長期的な準備が必要となります。

 

従業員間のパワハラやセクハラ

従業員間のセクハラ・パワハラについても、事業者は適切に対処する必要があります。

すなわち、使用者は職場の環境配慮義務が認められており、職場内で人権侵害が生じないように配慮する義務が認められています。このため、加害者個人が不法行為に基づく損害賠償義務を負うのはもちろん、事業者もかかる義務違反を理由とした債務不履行責任を追求されたり、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになりえます。

 

介護事故について

 

介護事故が発生した場合、介護事業者は、行政上の責任(許認可の取消し等)、刑事上の責任(業務上過失致死傷罪等)、民事上の責任(損害賠償請求等)を問われる可能性があります。

これらのうち、弁護士へのご相談が特に多いのは債務不履行責任や不法行為責任にもとづく、損害賠償請求への対応です。

債務不履行責任は、利用者と介護事業者が契約関係にあることを前提に、安全配慮義務違反を理由とした責任追及がなされることが多く、不法行為責任は、一般的な不法行為責任を問う場合のほか、高齢者に認知症などで責任能力がないことを前提とした責任無能力者の監督義務者の責任が問われたり、従業員の使用者責任、あるいは施設が通常備えているべき安全性を欠いているとした工作物責任が問われることが多いといえます。これらの請求の代表的な原因としては、施設内で転倒した、施設の窓などから転落した、誤嚥事故が発生した、徘徊の末負傷したなどがあげられます。

これらの請求がなされた場合の対応・反論としては、請求の内容や法的構成にもよるのですが、事故と死亡との因果関係の有無、職員の不注意が認められるのか、過失相殺されるべき事情がないか、素因減額が認められる余地がないかなどが問題となることが多いといえます。

施設側としては不幸にしてこのような事態になってしまった場合、事故の態様、利用者の健康状態、従前当該利用者について事故の発生を想起させるような事情がなかったか、等の事情を適切に判断し、賠償の有無及び額を判断しなければなりません。

 

最後に

 

以上にあげた問題は、介護施設が抱えがちな法的問題の一部ですが、その解決のためには、必ずしも明確とは言えない法律の適切な解釈のもと対応を決めなければなりません。当事務所では、介護施設の様々なお悩みを解消するために事業者の皆様を手厚くバックアップしています。ささいなことでも、お悩みをお持ちであれば、お気軽に当事務所までご相談ください。