法人向け法律サービスシステム開発紛争

システム開発紛争とは

近年の急速なIT化の流れで,これまで人の手で行ってきた様々な業務や顧客サービスが電子化され,それを担うシステムの重要性が高まってきました。最近では,IoT(Internet of Things,モノのインターネット)の普及により,工場の様々な機械・センサーをネットワークでつないで業務効率化を図るスマートインダストリーや,農業生産者が作物の生育状況などを様々なセンサーとコンピュータ・スマートフォンの連携によって管理するアグリテックなど,これまで業務システムとは無縁であった業界にも,新たに業務システムが導入され始めています。

このような中で,これまで以上に増加することが予想されるのが,システム開発・運用に関する紛争です。

開発段階においては,例えば,ベンダー(開発者)とユーザー(発注者)の思い描いているシステムの仕様にズレが生じていた場合,システム導入後に,ユーザーからベンダーに対して「思っていたものと違う」と苦情が来て,それが訴訟にまで発展してしまうケースもあります。

また,システム開発中に,ユーザーの業務内容が変わったなどの事情から,ユーザーがベンダーに対してシステム開発の中止を求めるケースがあります。この場合,ベンダーには「できる限り報酬の支払と費用の賠償をしていただきたい」という思いが,ユーザーには「開発を中止したシステムにコストをかけたくない」という思いが働き,2つの思いがぶつかって紛争に発展してしまうことがあります。

運用段階においては,システム障害の発生や,データの消失事故・情報漏えいなどの発生により,システム運用事業者とユーザーとの間で紛争が起きるケースがあります。また,これらの事故の原因がシステムのバグにある場合,ユーザーがシステム開発者(ベンダー)の責任を追及して損害賠償を求めるケースもあります。

ベンダーとユーザーとの間で紛争になるケースは,システム開発に限ったことではありません。ただ,システム開発には,紛争が起きやすい特有の原因があります。それは,システムの中身はユーザーに分からないことです。例えば,ビル建設工事の場合,建設途中に当初の計画に問題があることが明らかになれば,その都度,計画変更を行うことができます。一方,システムの場合,個々のプログラムをユーザーが確認することができないのはもちろんのこと,システムの設計書を見ても,ユーザーには「自分の要望がかなう設計になっているのかどうか」を理解することができないケースがほとんどです。そのため,ユーザーが,システムを実際に導入してはじめて問題点に気づくというケースも多々あります。システム導入後の紛争の場合,ユーザーから多額の損害賠償を求められることが多く,ベンダーにとっては「頭を悩ませる」ものとなります。

このようなシステム開発・運用に関する様々な紛争を解決するためには,システムに関する問題に詳しい弁護士との連携が不可欠です。

システム開発契約のあり方が変わる2つの話題

いま,システム開発契約のあり方を変える,2つの話題があります。1つは,2020年施行の民法改正,もう1つは,AIを活用したシステムの普及です。

1 民法改正で何が変わるのか

2020年に改正民法が施行され,従来の瑕疵担保責任の考え方が見直されることになりました。これまでの裁判例を踏まえると,完成したシステムにバグがある場合,(1)そのバグがシステムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせるもので,かつ,指摘を受けて遅滞なく補修することのできないものである場合や,(2)バグの数が著しく多く,かつ,順次発現してシステムの稼働に支障が生じる場合などには,システムに「瑕疵」があるものとして,ベンダーに対する瑕疵担保責任の追及が認められてきました。民法改正により,「瑕疵」という用語がなくなり,「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」(改正民法636条)という用語に改められます。

また,ユーザーがベンダーに対して追及することができる担保責任の内容や,担保責任の要件,期間制限についても,見直しがされました。その中で,実務上の影響があると思われるのが,担保責任の期間制限がユーザー側に有利になるように見直された点です。

従来の担保責任(瑕疵担保責任)では,権利を行使することができる期間が,システムをユーザーに引き渡してから1年以内に制限されていました。民法の改正で,この期間制限が緩和され,(1)ユーザーが不適合の事実を“知った”時から1年を経過するまでは権利の行使が可能となり, (2)ベンダーが不適合を知らなかったことに“重大な過失”があったときなどには期間制限が適用されない(1年経過後も権利行使が可能)ことになります。民法改正後は,システムを引き渡してから何年も経過して,ユーザーから,「これまで不具合に気づかなかった」という理由で担保責任を追及されるおそれがあります。このような問題を防ぐためには,契約時に担保責任について期間制限を設けておく必要があります。

民法改正の影響で,これまで使っていた契約書のひな型を使い続けることで不都合が生じる可能性が大いにあります。トラブルを回避するために,民法改正に備えて,弁護士による契約書チェックを受けることをおすすめします。

2 AIを活用したシステムの開発

最近のAIブームで,様々な業界において,「ぜひわが社でもAIを導入したい」という機運が高まっています。今後,AIを活用したシステムは,社会を支える重要なツールとなっていくことが期待されます。

このような流れを受けて,AIを活用したシステムの開発に参入しようとしているIT企業は,多くあることと思います。ただ,AIを活用したシステムの開発は,従来型のシステムの開発とは大きく違う点があり,「これまでの経験」が通用しないことがあります。

AIを活用したシステムが従来型のシステムと大きく異なるのが,「データを学習する」という過程が開発段階・運用段階に入る点です。システムの企画から要件定義までのスタート段階において,取り扱うデータについて分析を行ったり,実際に学習を試行してみたりする過程を経て,「ユーザーが要望することを本当にAIが実現してくれるのか」を検証することが,ベンダー側には求められます。また,ユーザー側は,AIのメリット・デメリットについて検討せずに,いわば「AIブームにあやかって」AIを活用したシステムを要望するケースもあります。そのようなケースにおいては,ベンダー側が主体となって,AIを導入することのメリット・デメリットを踏まえ,「本当にAIを活用しなければならないケースなのか」をきちんと検討する必要があります。

AIを活用したシステムの開発に関しては,神戸支店サイトのコラムにおいて詳しく取り上げておりますので,ご興味のある方はそちらもご参照ください。

AIを活用したシステムの場合,例えば,次のような紛争が想定されます。

第1に,AIは,データの分析や学習の段階において多額の費用と期間を要することが多く,その点についてベンダー側が甘い見積もりをしたり,ユーザー側にきちんと説明していなかった結果,開発途中でプロジェクトが頓挫してしまうことがあります。その場合,「通常のシステム開発以上にお金と時間をかけてきたのだからきちんと報酬の支払と費用の賠償はしてほしい」というベンダー側の思いと,「こんなに費用や期間がかかるとベンダーから聞いていなかったから,報酬の支払も費用の賠償も応じたくない」というユーザー側の思いがぶつかって,大きな紛争に発展するおそれがあります。

第2に,AIは,学習によってどのような成果が得られたかがベンダーにも分からず,ブラックボックス化してしまうために,ベンダーも不具合の発見が容易ではありません。システムを導入して初めはうまく機能していたが,しばらくして不具合が生じることもあります。しかも,プログラムのバグとは異なり,学習結果(学習モデル)を修正することは困難ですので,不具合の発生がそのまま紛争へとつながってしまうリスクが大いにあります。学習モデルの問題から生じた不具合について瑕疵担保責任が認められるケースは限られると考えられていますが,それでも,ユーザー側が瑕疵担保責任を追及してくることは十分にあり得ます。

以上のように,AIを活用したシステムの場合,従来型のシステムとは異なった特有の紛争の発生が想定されますので,専門家との連携がいっそう重要です。

システム開発紛争はなぜ起きるか

1 契約書に不備があるケース

システム開発紛争においてしばしば問題になるのが,契約書を交わす前からベンダーがシステム開発に着手したり,契約書の内容に不備があるようなケースです。

ユーザーがシステム開発を急いでいるケースや,複数のベンダーが委託先の候補に上がっていてベンダー間の競争が生じているケースにおいては,ベンダーがユーザーとの契約書を交わす前から,口頭でのやりとりのみでシステム開発を中途まで進めてしまうケースがあります。このようなケースにおいては,ユーザー側の都合でシステム開発を中止したい場合に,ユーザーがベンダーとの事後の契約締結を拒否してくることがあります。このような場合,ベンダーからユーザーに対する報酬支払請求や損害賠償請求の問題になりますが,契約書が存在しないゆえに,立証に難航することが多々あります。

また,たとえ契約書を交わしていたとしても,例えば,契約書に必要事項が明記されていないことで,契約解釈をめぐって紛争になるケースもあります。

たとえ小規模なプロジェクトであったとしても,何の契約書も取り交わすことなくシステム開発に着手することはリスクが高いですし,たとえ契約書を取り交わしていたとしても,その内容に問題があれば,やはり紛争は避けられません。

システム開発紛争を防ぐためには,契約締結段階から弁護士などの専門家のアドバイスを得ておくことが重要です。

2 ユーザーと合意した仕様についてきちんと文書化していないケース

契約書を取り交わしていただけでは,システム開発紛争を避けることはできません。なぜなら,一般に,契約書にはシステムの仕様まで記載していないために,ユーザーとベンダーとの間で合意した仕様についてきちんと文書化しておかなければ,やはり,システム開発紛争を避けることはできません。

できる限り,ユーザーとベンダーとの間で合意した内容をそれぞれのステップにおいて「要件定義書」「設計書」といった文書にして,ユーザーから「思っていたものと違う」という苦情を受けた際に反論できる体制を整えておくことが重要です。

また,ユーザーからの急な仕様変更の要望に対してもきちんと変更内容を文書化しておくことや,会議について議事録を作成してユーザーと話し合った内容を共有するなどの配慮も,システム開発紛争を避けるうえで重要なことです。

3 ベンダーがプロジェクトマネジメント義務を果たしていないケース

ベンダーは,システム開発を進めていくうえで,常に進捗状況を管理,開発作業を阻害する要因の発見に努め,これに適切に対処しなければならない義務や,専門知識のないユーザーが開発作業を阻害しないように働きかけを行う義務を負っています。このようなベンダーの義務を,プロジェクトマネジメント義務といいます。

プロジェクトマネジメント義務に関してしばしば問題になるのが,ユーザーが無理な仕様変更をシステム開発途中で要求してくるケースです。

例えば,システムが半ば完成した段階で,ユーザーから「最近業務内容に変更があったから,一部の仕様を変えてほしい」と要望があったとします。ただ,ユーザーの要望に応じると,費用が予定よりもはるかに高額になるうえに,開発期間も伸びてしまうとします。このような場合に,ベンダーはどのように対応すべきでしょうか。

もし,「ユーザーから言われたから従っておけばよい」と,すぐに要望を受け入れれば,紛争に発展しかねません。おそらく,ユーザーは,「追加費用の発生や開発期間の伸長について聞いていなかった」として,報酬支払の拒否・損害賠償請求・契約解除といった法的手段に出ることでしょう。

ベンダーとしては,ユーザーに対して,もし要望に応じればどれくらい費用が増加して,開発期間が伸長するかについて,あらかじめユーザーにきちんと説明することが必要です。

「ユーザーの要望に従ったまでで,うちに責任はない」とベンダー側が主張しても,なかなか認められません。なぜなら,ベンダー側には,プロジェクトマネジメント義務があるためです。

また,ユーザー側からのシステム開発に必要な情報提供が遅延したために,システム開発が予定よりも遅延してしまうケースがあります。このようなケースでも,ベンダー側に責任が問われることがあります。なぜなら,ベンダー側は,プロジェクトマネジメント義務に基づいて,ユーザーに対して情報提供の遅延による開発期間への影響をきちんと説明し,ユーザーに期限遵守を促すことが求められるからです。

ベンダーがプロジェクトマネジメント義務についてきちんと意識していないと,思わぬ原因でユーザーとの紛争に発展してしまうおそれがあります。システム開発段階においても,プロジェクトマネジメントについて弁護士などの専門家のアドバイスを取り入れておくことで,紛争を防ぐことができます。

システム開発紛争が起きた際は

システム開発紛争が起きてしまった際に重要なのは,初動対応です。

例えば,開発したシステムに何らかの脆弱性があり,それが要因となって,システム運用中に情報漏えい事故が発生したとします。このようなケースにおいて,ベンダーは,迅速に原因究明を行い,ユーザーに対して,想定される情報漏えいの範囲や,情報漏えいの拡大を防止するために必要な対応を指示することが理想的です。

このようなケースにおいて最もしてはいけないベンダーの対応は,「非を認めないために,ユーザーに対して脆弱性に関する情報の提供を躊躇すること」です。このような対応をすれば,情報漏えいの被害が拡大しうるうえに,ユーザーの業務にも多大な影響を及ぼし,後々に莫大な損害賠償請求をされてしまうおそれもあります。

ベンダーにとって最善の選択は,非を認めるべき点はきちんと認めたうえで誠実に対応し,被害拡大の防止に尽力する対応です。

もっとも,ベンダーがユーザーに対してどこまで情報を提供すべきかというのは,見極めが難しいことでもあります。なぜなら,情報漏えい事故のようなケースでは事後に訴訟に発展することがしばしばあり,被害拡大の防止に必要な範囲を超えた過剰な情報提供は,訴訟においてベンダー側が一方的に不利になる原因にもなりかねません。

また,補償交渉についてベンダーとユーザーとの当事者同士で話合いをしても,まとまらないばかりか,かえって思いがぶつかって火種が大きくなり,泥沼化した状態で訴訟に至ってしまうケースがしばしばあります。このような事態を防ぐためには,代理人弁護士が交渉窓口になって折衝を図っていくことが望ましいです。

システム開発紛争が起きてしまった際には,すぐに弁護士のアドバイスを得て,的確な初動対応を行うことが,最善の選択です。

システム開発紛争のことでお困りの際は

システム開発紛争のことでお困りの際には,当事務所までご相談ください。

当事務所には,情報処理安全確保支援士(登録情報セキュリティスペシャリスト),応用情報技術者の資格を有する弁護士が所属するほか,企業側の代理人として様々な契約に関する紛争に携わってきた弁護士が所属しており,専門的見地から,システム開発紛争に関するトラブルに対して迅速・的確に対応いたします。

大阪・神戸・京都をはじめ,関西地域からのお問い合わせに幅広く対応いたしております。

「契約書の文言で気になることがある」「仕様書について相談したいことがある」といった日常業務での問題から,「ユーザーからクレームが来た」「ユーザーから訴えられそう」といったすでに紛争化してしまった事案まで,お困りのことは,迷わず,みおにご相談ください。

ご相談はこちら